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聖霊に送り出されて

聖霊に送り出されて
土橋 修

使徒言行録13章1-12

シリアのアンティオキァ教会に迎えられたサウロにとって、ここが彼の後生涯の伝道基地となりました.イエスとほぼ同世代の彼は、前半は徹底的にイエスに逆らい、回心後の後半を、一貫してイエスの名による福音宣教に、その生涯を捧げました。そして最後は、ローマで彼自らも殉教の死を遂げました.前置き(1〜3)の部分で、この教会の予言者・教師5名の名が紹介されています。バルナバが筆頭で、サウロがしんがりです。この中からアンティオキァ教会が、世界伝道の初の伝道者として選出したのは、バルナバとサウロの2名でした。不思議な選択は聖霊の名によるものでした。この名コンビの初の世界伝道は、やがて二次・三次の伝道へと展開し、決定的な福音の世界宣教と、キリスト教の歴史を記すこととなりました.

4節以降は第一次の伝道旅行となります。そこには「聖霊によって送り出され」と力強く記されます。彼らはオロンテス河を下り、外港セルキァに出て、海の彼方のキプロス島に向かいます。この島が名誉ある最初の伝道地に選ばれた理由は不明ですが、恐らくバルナバと助手ヨハネ(マルコ)の郷里ということだったからでしょう。

この島での伝道はバルイエスと名乗る、偽予言者にして魔術師の男との出会いが記されています。バルイエスとはイエスの子の意で、その名からして怪しげです。事の起こりは地方総督が彼らの伝道に好意を持ち、二人を招待したことによります。バルイエスはこれは自分の地位と活動に不利と思い、妨害に出ました。これに対してサウロ(ここからパウロと変わります)は、彼をにらみつけその愚かな行為を激しく攻めます。このため彼の目はくらみ、他の人の助けなくては歩けなくなりました。かってのサウロの如く見えます。彼の偽預言、魔術行為が暴かれたのです。今の時代には見られない魔術師の罪ですが、米国の或神学者は、自国の教会事情を憂いて、次のように言っています。「米国の牧師の多くは、神に派遣されて置かれた自分の持ち場を逃げている。即ち宗教商売をしている。偽物を本物の如く見せかけ売りこんでいる。—-伝道は商売ではない。米国の牧師たちは『企業経営者』に変容してしまった」と。企業経営それは昔流の魔術・呪術の現代版だと言うのです。パウロが彼を「こらみつけて」の形相が恐ろしく感じます。それは聖霊の悪に対する怒りの形相とも思われます。すごみを感じます。

パウロの宣教する福音は、「主のまっすぐな道」です。彼は回心前は「律法」にまっすぐな人でした。しかしひとたびその非を知るや、「主の道」にまっすぐ飛ぴ込み、そのまま、まっすぐキリストの福音一途に走り出しました。愚直に見えるまっすぐな人が、バルイエスとの対決によく現れています。福音の正義を楯に、.罪と偽りの業に一喝するパウロの人となりに、大いに学ばねばならないと痛感します。

ここで改めて「サウロ」から「パウロ」への名の変更について、ひとこと申し上げておきます。サウロの名はユダヤ系の名です。初代イスラエルの王はサウルでした。大王サウルにあやかる名です。パウロの名はラテン系ローマでの名です。元来「小さい」の形容詞から来た名で「小さい者(小者(こもの))」「小柄の人」の意です。しかしこの名の交代は、彼がユダヤ世界から全世界(異邦人世界)への、福音伝道者として召された使命の変更に合わせたものと言うべきかと思われます。彼がユダヤとその律法の世界から飛び出し、広く大きく福音を世界大のしらせとして、人々に伝えるべく召されたという、その使命感のあらわれと言うべきでしょう。

更に、アンティオキァ教会の位置も、一部の英訳聖書には「ローカル(地方の)教会のアンティオキァ教会」という紹介があります。この教会はローカルを主張する教会なのです。真の教会は地方(ローカル)にあってこそ、福音宣教を大いに励むものです。ローカル性を強調し、誇る教会となりたいものです。

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